第4章 息抜き
「人が多いわね……」
伽那夛がトイレから出ると、ちょうどレースの合間のタイミングだったようで来た時より混雑していた。
甚爾と分かれた場所まで行こうとするが、なかなか真っ直ぐ歩けない。
向かいからは携帯をいじりながら歩いてくる男が。
こんな混雑した場所でよそ見して歩くなと内心で悪態をつきつつも、こちらに気づく様子もないので仕方なく脇に避けようとすると、
ドンッ
「なっ!?」
「痛ぇ!」
信じられないことに避けようとした伽那夛に男がぶつかってきた。
男に道を譲る形になっていたのにわざわざ伽那夛の方に突進してきたのだ。
驚くあまり言葉が出ない伽那夛に男が寄ってくる。
「痛ぇんだけど?」
「あーあ、携帯壊れちまった」
伽那夛にぶつかった男は腕をさすりながら、その隣を歩いていた男は床に落ちた携帯を拾って伽那夛を見下ろしてきた。
まるで伽那夛がぶつかってきたからこうなったとでも言うような態度だ。
気の弱い者ならここで折れてとりあえず謝るだろう。
だがあいにく伽那夛は同年代の女子、あるいは大人と比べてもかなり気が強いし、曲がったことが嫌いである。
たとえ相手が成人男性2人でも全く怯まない。