第4章 息抜き
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「……ねぇ」
何レースか見届けた後、おもむろに伽那夛が口を開いた。
隣でレースを眺めている甚爾に呆れて自分の勘違いを怒る気にもなれない。
何故ここまで呆れているかというと……
「チッ、また外れた」
この男、何度負けても懲りないのである。
ここまで見事に全戦全敗、賭けた馬はどのレースも掠りもしていない。
くしゃりと馬券を握り潰した甚爾が席を立とうとしたので思わず服を引っ張って引き止める。
「ちょっと!競馬が初めての私にも分かるわよ。今の状況『負けが込んでる』って言うんでしょ。もうやめた方がいいわ」
「うるせぇ、俺が何しようと勝手だろ」
「見てられないわよ、さっきから外れてばっかりじゃない!引き際は大事でしょうが!」
甚爾が次のレースの馬券を買いに行くのを阻止しようとするが、力比べでは到底勝てるはずもなく、甚爾の腕を掴む伽那夛は努力も虚しく易々と引き摺られていく。
しかし、伽那夛の予想に反して甚爾は券売機に着く前に立ち止まった。
広い背中で前が見えなかったため、伽那夛が甚爾の後ろから顔を覗かせると、少し髭を生やしたスーツ姿の男がいる。
……この人物が会うことになっていた仲介人だろうか。
「そっちが五条家のお嬢さん?お守りが大変そうだな、禪院」
「なっ、ぜ、禪院!?」
訝しげにスーツの男を見ていた伽那夛はその口から発せられた名に困惑して甚爾を見上げる。
彼の視線や周囲の人がこちらに見向きもしていない状況から甚爾のことを指しているのは明白だ。