第1章 微笑―月下の君―
見知らぬ部屋に監禁された伽那夛は外から鍵がかけられて開かない扉を蹴りつけていた。
なんなのよ、もうっ!!
自分を誘拐しようとする呪詛師達から逃げていたら、いきなり呪骸に捕まり、ここに連れてこられのだ。
誘拐自体はよくある話。
伽那夛は幼い頃からそういった危険に晒されながら育ってきた。
相手が1人ないし2、3人であれば返り討ち、もっと多ければとりあえず逃げる、というのが昔から実践してきた対処方法だ。
だが今回は呪骸に不意打ちされ、逃げる間もなく連行されてしまった。
本当に嫌になる。
それもこれも全部従兄弟のせい。
伽那夛は従兄弟の顔を思い出して苦い顔をする。
何が数百年ぶりの六眼を持った無下限呪術の使い手よ。
何がこれで五条家は安泰だ、よ。
生まれた時から次期当主を約束され、何の苦労も知らずにもてはやされて育ってきたアイツのせいで……
アイツの弱みになるからと私を連れ去ろうとする呪詛師は後を絶たない。
それでいて私がそれらを撃退して帰っても家の者からの苦言が待っている。
―また攫われたの?悟坊ちゃんの足を引っ張ってはいけませんよ―
―悟様のご迷惑をちゃんと考えて、もう少し慎重に行動なさい―
ふざけないでよ、誰のせいでこうなったと思ってるのよ。
でも私が口答えしても誰も聞く耳なんて持ちやしない。
挙げ句の果てには女が口答えするとは何事だと頭ごなしに怒鳴られる始末。
あーっ、思い出すだけで腹が立ってきた!
こうなったら私の誘拐を目論んでこんな場所に連れ込んだ奴らにこの怒りをぶつけてやる!!