第4章 息抜き
そうして客席のある建物から出てすぐの場所で甚爾が立ち止まり、伽那夛もそれにつられて止まり、甚爾の後ろから顔を覗かせた。
グラウンドのトラックを小さくしたような場所、パドックで競走馬が歩いている。
「あれは馬の準備運動?」
「次のレースで走る馬を客に見せてんだよ」
「へぇ……」
ここで馬のコンディションを見せているということか。
伽那夛が見てもどの馬のコンディションが良好なのかは分からないが、艶のある毛並み、スラリと伸びる脚に引き締まった胴体、尾を風になびかせて歩く姿は美しい。
しばらく眺めていると他にも馬それぞれの違いが見つかってきた。
色とりどりのマスクをつけている馬、鼻筋にフワフワした飾りをつけている馬、中でも伽那夛が目を引かれたのは、頭の天辺のたてがみに赤いポンポンのついた飾りをつけて歩いている馬だった。
「たてがみに赤い飾りつけてるの、可愛いわね」
競馬というからには遊び心などないものと思っていたため、おめかししているのを見ると微笑ましくなる。
……しかし、それは単なるお洒落ではなかった。
「オマエが言ってるソレ、噛みつき癖があるから注意って印だぞ」
「えっ!?じゃ、じゃあ尻尾につけてるのは?」
「蹴り癖注意の印。オマエと一緒だな」
「失礼ね、蹴飛ばす相手は選ぶわよ!」
ニヤニヤと意地悪く笑う甚爾に伽那夛は膨れっ面になった。