第3章 冷たい激昂
「いちいち真に受けるからそうなってんだろ。奴らはポルトガル語とかスワヒリ語とか、知らねぇ外国語で喋ってるものだと思えばいい」
「なっ……!」
「何か言ってるくらいで聞き流しとけばいいんだよ」
「それは……でも同じ日本人だし」
「ソイツらはオマエのこと同じ人種だと思ってねぇぞ」
事実を突きつけた途端に伽那夛が傷ついた子犬のような表情になった。
少し言い過ぎたか。
……けどここで機嫌を取ってもどうせ後々分かることだ。
彼女も思い当たる節があるらしく、俯いてそれ以上何も言ってこなくなる。
車内に沈黙が降りてしばらくした頃、
「……少し休憩すっか」
「……?」
「オマエの引き渡し前に仲介人と会うことになってる。そのついでだ」
五条家の意向で伽那夛の本人確認をするということを孔から聞いている。
孔が話をつけた五条家の者から伽那夛の特徴を聞いているため、直接会って確かめると言っていた。
偽者を掴まされては堪らないという五条家の意図が透けて見える。
こちらだってわざわざ偽者を立ててまで五条家と関わりを持ちたいなど微塵も考えてないというのに。
「どこ行くの?」
そう尋ねた伽那夛に本人確認うんぬんの話をするかどうか、少し考えた末に甚爾は一言だけ答えた。
「馬」
「うま?動物の?」
「ああ、ちょうどいい気分転換になるだろ」
伽那夛はこの返答でてっきり牧場にでも行くのかと思っていた。