第3章 冷たい激昂
実力を披露する機会がなかった訳ではない。
むしろ幼い頃から何度も誘拐されそうになっており、その度に相手を返り討ちにしたり、脱出してきたり……
しかし無傷で帰っても家族から褒められることは一度もなかった。
「今まで何人刺客を返り討ちにしても『女に負けるなんて余程弱かったんだな』とか『どうせ色仕掛けにやられたんだろう』とか……誰も私の実力だと認めなかった」
それどころか「そもそも誘拐される方が悪い」だとか「隙が多すぎるから狙われるんだ」「大して強くないのだから家でおとなしくしていろ」と言われる始末。
誰のせいでつけ狙われるのか分かってない。
さっきの刺客だって悟を強請るために伽那夛を狙っていたというのに。
また沸々と腹が立ってくる。
「くだらねぇな」
隣から聞こえてきた面倒くさそうな言葉に伽那夛は勢いよく振り向く。
「なっ!?た、確かにあなたにとってはそうかもしれないけど、私にとっては……」
「それでもくだらねぇよ」
「っ!!」
瞬間的にカッと怒りが爆ぜかけたが、次に続いた甚爾の言葉が冷や水のように降りかかってきた。
「オマエは律儀に全部受け止め過ぎだ。オマエを見てない奴の評価が変わったとして、それが嬉しいのかよ?」
伽那夛が五条家から受けている扱いは、甚爾が禪院家にいた頃の扱いに比べればまだ生温い。
だが伽那夛のように怒る気も起きないのは、何を言っても無意味だと理解したから。
禪院家の者は甚爾を同じ人間として見ていなかった。
あっちがそう見てきたから自分も同じようにしたまで。
「そんな連中にどう思われようがどうでもいいだろうが」
「だ、だって聞き捨てならないじゃない!」
やっぱりコイツは素直で真面目だ。
無視しとけばそこまでストレスを溜めなくて済むだろうに。