第3章 冷たい激昂
車が走り出しても伽那夛は流れる景色を眺めておとなしくしている。
刺客を返り討ちにする以前の騒がしさは微塵もない。
物足りない気もしないではないが、静かな方が甚爾としても楽だった。
「……ねぇ、もしあの刺客達を殺してたら、ちょっとはスッキリしたかしら?」
しばらく車を走らせていると、伽那夛がポツリと呟いた。
甚爾が横目で隣を見ると、あの男達を気絶させるに留めたことを後悔してるのか、伽那夛はわずかに眉をひそめている。
ただ、果たして殺せば心のモヤが晴れるのか確信が持てないでいるようだ。
もちろん人が人を殺す理由など千差万別、憎いから殺す、自分、ないし近しい者の命が危険に晒されるから殺す……あるいは己の快楽のために殺すというのもある。
殺し屋という職業柄、様々な“誰かを殺したい人間”を見てきたが、甚爾自身は殺しに何の目的も持たない。
甚爾にとってのそれは単に金を得る手段でしかないからだ。
「殺した瞬間は多少スカッとするかもな。だがその瞬間だけだ。後は……そうだな、オマエでいうと血で汚れた靴を見てうんざりするさ、それ掃除するのは自分だし。それに死体の後始末も面倒」
殺し屋である彼の言葉には語るだけでない重みが伴っている。
「……あなたもうんざりするの?」
「金もらわなきゃやってらんないね」
「そっか……」
伽那夛は自嘲気味に笑う。
「……少しは私の実力を知らしめられるかなって思ったんだけど、そう上手くはいかないわよね」
「7人相手にあんだけ大暴れしとけば十分だろ。威勢だけって言っちまったけど、しっかり実力も伴ってたじゃねぇか」
ただ単に実感を伝えただけだったが、伽那夛は目をまん丸にして甚爾を見ていた。
「なんだよ、マヌケ面して」
「……初めてだったの、そういうこと言われたのが」