第3章 冷たい激昂
伽那夛は車に乗り込む前にはたと止まって甚爾を見上げる。
「あの車、どうするの?」
指を差して示したのは刺客が使っていた車。
特に自分達が乗ってきた車の前に置かれた車を退かさなければここから動けない。
「さて、どうすっかな……」
軽く肩をすくめた甚爾が邪魔な車の前まで歩いていく。
退かすにしても刺客が短時間で目を覚ましたら追ってくることも考えられるため、2台ともすぐには動かせないようにしておくのがいいだろう。
エンジンを壊すか、タイヤを曲げるか……
……どっちも手間だな。
エンジンはオイルが飛び散ると厄介だし、タイヤもスペアを積んでいる可能性がある。
かといってスクラップにするのはもっと手間がかかる。
無論、何が仕掛けてあるが分からない刺客の車に乗り換えるのは論外だ。
手っ取り早く退かせて、しかもすぐには動かせない状態……
いい方法はないかと車を眺めていると、ピンと閃いた。
車の側面で屈み、縁を掴んで力を込める。
そして投げ飛ばした。
宙へ飛んだ車は上下逆さまの状態で着地。
もう1台もひっくり返してこちらに戻ってくる甚爾に伽那夛は驚きを通り越して呆れていた。
「……メチャクチャ過ぎじゃない?」
「これが一番だろ。車を退かしてしかも連中が起きて追ってこようとしてもすぐには車を動かせねぇ」
「た、確かにそうだけど」
邪魔がなくなった元々の車に乗るよう促されるまま、伽那夛は助手席に乗り込んだ。