第3章 冷たい激昂
金髪男を踵落としで気絶させた伽那夛は、術師の男に狙いを定めて滑るように一瞬で距離を詰める。
これだけ近づいた状態で地面を柔らかくするあの術式を使ったら術師自身も巻き込まれる。
それにもし使われたとしても地面に足をつけなければ捕まらない。
これで終わりよ……!
逃げる隙など与えない。
男の脇腹に強烈な回し蹴りを叩き込み、男はワゴン車に叩きつけられ、その衝撃で気を失った。
残すはセダンの運転手。
伽那夛がそちらを睨みつけるとヒィッと息を呑み、腰を抜かした。
まさか伽那夛がここまでやるとは思っていなかったらしい。
術式を解いた伽那夛はそれに構わずツカツカと男の方へ歩いていく。
「ち、ち、違うんだ。俺達はただ、美味い仕事があるって唆されただけで……!」
「それで見逃されると思ってるの?その“美味い仕事”を引き受けたのはあなた達。自分達の意思で私を狙ったんだから、当然返り討ちにされる覚悟もあったのよね?」
男を仁王立ちで睨む伽那夛はその端正な顔立ちも相まってかなり凄みがある。
「わ、悪かったよぉ、アンタを捕まえれば五条悟を強請れるって言われたんだ」
「はぁ?」
「五条悟には莫大な懸賞金がかけられてんだ。でも奴と真っ向勝負で勝てる人間なんていない。だからアンタを……」
その言葉は伽那夛の逆鱗を刺激するには十分すぎた。
右の靴底が半分に割れ、出てきたエッジを男の首筋にピタリと当てる。
冷たく鋭利な感触に男は言葉を引っ込めた。
「五条伽那夛は悟を強請るための餌?笑わせないで。私のことを見てもいない奴に私が負けるとでも?」
「ヒッ」
一段低くなった声は凍てつくような気配を孕み、男を萎縮させるには十分すぎる程だった。
「たかが女のガキと侮ったことを後悔するといいわ」
伽那夛の靴はヒュンッと男の首の皮を薄く裂き、続いて男の脳天に強烈な踵落とし。
男はたまらず気を失った。