第3章 冷たい激昂
術式……!
このまま術式を解かれたら足が地面に埋まった状態で固められる。
やっぱりただのゴロツキ集団じゃなかったわね。
そっちがその気ならこっちだって……!
底なし沼のようになった地面に飲み込まれていく伽那夛に向かって術師の男が吐き捨てる。
「溺れちまえ!」
「殺すな!そのガキは五条悟を強請るための……!」
最初に甚爾に話しかけてきた金髪男が言い終わる前にその脳天に伽那夛の踵が落ちてきた。
「いつの間に!?」
術師の男は汗を浮かべながら驚愕している。
先程伽那夛が沈みかけていた場所から一瞬であそこまで移動していて、何が起こったのか理解できなかった。
一方、相変わらず静観している甚爾も伽那夛の動きに瞠目していた。
術師の男とは違い、甚爾の目には伽那夛がどう動いたのかがはっきりと見える。
彼女は確かに膝のあたりまで地面に沈んでいたが、それ以上は沈まず、すぐに浮上してきた。
無理やり足を引き抜いたというよりも浮かんできたような動き方だ。
あの術師は伽那夛の足元だけでなく、その周囲にも術式を発動していたはずだが、伽那夛は足を取られることなく……いや、地面からわずかに浮いた状態で文字通り滑るようにして金髪男の元まで移動、跳び上がって踵で落とした。
目を見張ったのはその移動速度。
力強く踏み込むような動作はなかったのに、並の術師の目では追えない程の超高速。
地面から少し浮いている足元に何かタネがありそうだ。
甚爾がこれまで目にしたことのある術式の中でこれほど速度が出せるのは禪院家の現当主が持つ投射呪法だが、あれは動作を刻むので見え方も滑らかに繋がらない。
また、五条家相伝の無下限呪術も瞬間移動ができるらしいが、こちらは見たことがないので分からない。
だがその可能性が無いに等しいということは知っている。
なぜなら六眼を持たない伽那夛では満足に扱えない術式だから。
しかも先程のは瞬間移動のような動作でもなかった。
一体どんな術式だ?
伽那夛が車から飛び出した直後は怪我をしないか見ていたが、今は別の意味で彼女から目が離せなかった。