第3章 冷たい激昂
伽那夛を車に乗せ、走り出すこと数十分。
サイドミラーに目をやった甚爾がおもむろに口を開いた。
「……オマエさ、誰かに追われてる?」
「?、そんなのしょっちゅうよ。外に出たらいつものこと」
「違う、“現在進行形で”だ」
「!?」
伽那夛が慌てて後ろを振り向く。
が、後ろの車は家族連れのようだ。
あの家族連れが尾行してきているとは到底思えない。
「……どういうこと?」
「1台挟んで後ろの車だ。ずっと俺達と同じルートで走ってる」
甚爾は家族連れの車の後ろ、白のワゴン車をサイドミラー越しに睨む。
最初は気のせいかとも思ったが、試しに適当な道を左折し、更に3回左折を繰り返して元の道に戻ってみたら、全く同じ道を辿ってきた。
「逃げきれないの?」
「んなドラテクねぇっての。道も混んでるしな」
日本のこんな一般道でカーチェイスなど仕掛けようものなら一瞬で事故って終わり。
それに何より自分の足で走った方が断然早いし、小回りも利く。
いざとなったら車を捨てて逃げればいい。
そう算段をつけていたら、伽那夛の口から予想だにしない言葉が飛び出してきた。
「じゃあ迎え撃ちましょう」
「オイオイ、いきなり物騒だな。奴ら何人いるか分からねぇぞ。術師だったら尚更厄介だしな」
「望むところよ!私を狙ったことを後悔させてやるわ」
「威勢だけはいいのな」
「威勢だけって何よ!ああいう奴らは逃げ回ってもしつこいだけ。1発ガツンと重い一撃をお見舞いしておいた方が後が楽だわ」
これまで幾度となくこういった経験している伽那夛の言葉には妙に説得力がある。
しかし、
「こっちはオマエを無傷で帰すのが仕事だ。無駄に戦って怪我でもされたら面倒くせぇ」
甚爾はあくまで逃げ優先の姿勢だった。