第2章 人生初の……
肩をすくめた伽那夛の言い分は甚爾にも分からなくはなかったが、それでも贅沢な悩みだと思わずにはいられない。
自分の中で弱者を決めつけ、それを憐れむことで博愛を気取って自己陶酔に浸っているタイプ。
こういう奴は憐れむだけで決して弱者を助けない人間だろう。
「ソイツらが可哀想だって憐れんで自己満足か?くだらねぇ」
だからこそ返した言葉は少しばかり棘のあるものだった。
しかし意外にも強い反対の言葉が返ってくる。
「何それ。違うわ、私は怒ってるの!このままじゃ自分の人生お先真っ暗じゃない。私は召使いになるために生まれてきた訳じゃないの。それなのに私の人生は勝手に五条家に使われる、そんなの御免よ!」
頬を膨らませて怒りを主張しているが、笑ってしまうくらい全く凄みがない。
「笑わないで!あなたにとっては関係ない話だけど、私にとっては一大事なんだから!」
「話の内容を笑ったんじゃねぇよ。フグみてぇなその顔がなんか笑えた」
「何ですってーっ!?」
「そうカリカリすんなよ。ここで死ねばその反骨も無駄骨だろ。オマエは無傷で帰る、俺は金をもらう、そんでいいじゃねぇか」
「……それもそうね。殺し屋を目の前にして生きて帰れる保証があるんだから、上々と考えるべきよね」
……単純だな。
コイツ、こんなんで五条家でやっていけんのか?
すっかり丸め込まれたことに思わずそんな疑問がよぎる。
少々怒りっぽいが、御三家の術師とは思えない程素直だ。
自分は彼女からすれば得体の知れない殺し屋。
にもかかわらず、話にはちゃんと耳を傾けるし、見下すこともしない。
先程甚爾が抱いた伽那夛への嫌悪感は嘘のように消えていた。