第1章 微笑―月下の君―
自分の術師としての価値はそんなに高くないと自嘲気味に笑う伽那夛は少しだけ昔の甚爾に重なるものがあった。
姿も年齢も性別まで違うのに、"出来損ない"という烙印を押され、禪院家の誰からも虐げられたあの頃の自分を見ているようで少しだけ気に食わない。
「メシ食いに行くぞ」
初対面の、しかも五条家の術師相手に何言ってんだか。
同類を憐れんだのかと聞かれたら確実に否、そもそも術式を持って生まれている時点で明白に同類ではないと断言できる。
それでもなんとなく放っておけないところがあり、気づけばそう口に出していた。
「返答によっては私をここに置いていくんじゃないの?」
「最短でもあと20分はかかる。それまでここで1人待ちぼうけがいいか?」
「嫌よ、私も行く。仮に断られたとしてもここよりアクセスの良い場所に置いていかれた方がまだいいし」
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