第1章 微笑―月下の君―
この状況を金にするため、五条家への接触を依頼すると、案の定というか予想通りというか、電話口の孔は渋った。
「もう先約の仕事は終わってる。こっちはついでだ。五条家の金払いによってはここに取り残して1人で帰らせるが、途中で死なれて変に勘繰られるのは癪だ」
『それで今すぐ五条家と話をつけろって?ったく無茶言うぜ』
「それが仕事だろ?」
電話口から長いため息が聞こえる。
『……そのガキの名前と特徴は?』
「名前は五条伽那夛、術式持ち。13、4歳ってとこか。長い黒髪、体型は背が高くて細身」
電話しながら伽那夛を上から下まで眺め、特徴を伝える。
厚底の靴を履いているせいもあるだろうが、いわゆるモデル体型。
顔も整っているから普通の生活を送っていれば声を掛けられる場面もあるだろうと想像できる。
まぁ、家父長制の根強い呪術界ではいくら顔が良くても、総じて女は男より価値が薄いもの。
だがそれでも御三家、野垂れ死にはさせないだろう。
「2000で送り届けるって言っとけ」
ここから五条家がどう交渉してくるかによるが、こちらの立場が圧倒的に有利。
下がったとしても1500くらいで止まるはずだ。
1000を下回る時は置いていこうと決めて、孔との通話を切る。