第1章 微笑―月下の君―
「ねぇ、なんであなただけあの結界を通り抜けられたの?」
呪具の扱い方といい、武器庫呪霊を飼っていることといい、彼が術師であることは疑いようがない。
それなのに洋館の結界が自分だけを弾いたことに納得いかない伽那夛が尋ねると、面倒くさそうな返事が返ってきた。
「呪力がねぇから」
「……え?」
「何だよ、その顔。結界っつーのは呪力の強弱で閉じ込める条件を設定すんだろ」
「いや、それは知ってるわよ。でも……え?」
「俺にはその条件に引っかかるもんが最初からねぇんだよ。よく見てみろ」
「そんな訳な…………ホントだ」
甚爾の頭の上からつま先まで見てそう呟いた伽那夛だったが、にわかには信じられない。
確かにどの角度からどう目を凝らしても、呪力を感じない。
呪いが見えない非術師だって僅かに持っているはずなのに、それが全くないのだ。
「そ、そんなことってあるの?……でも、確かにそれならどんな結界も素通りできるわね」
腕組みして考察し始めた伽那夛の隙を見て、甚爾は孔に連絡を取る。