第1章 微笑―月下の君―
「!、しまっ……!」
死角から飛んできた老婦人の絵画に反応が遅れ、装飾が施された鋭い額縁が目の前に迫る。
呪力でのガードも遅れてしまう。
ぎゅっと目をつぶった瞬間、襲いかかっていた絵画がガラガラと一斉に床に落ちた。
「……え、」
「間一髪だったか?……でもそこそこちゃんと戦えてたみてぇだな」
恐る恐る目を開けると、伽那夛のすぐ隣に甚爾が立っており、こちらを見下ろしていた。
一体いつの間に?
部屋の扉は絵画が殺到していたせいで人が入れる隙間なんてなかったはず……
と訝しむ伽那夛が天井を見上げると、大穴が空いていた。
ここの真上の部屋の床を突き破って降りてきたらしい。
安堵したのと同時に伽那夛の心の中では沸々と怒りが湧いてくる。
「あなたねぇ!大事な一言が足りないでしょ、せめて何しようとしてるかくらい言ってよ!こっちは何の準備もなく呪骸の相手をしなくちゃならなかったのよ!」
「うるせぇなぁ、元凶の呪霊は最速で祓ったろうが」
「確かにそうだけど……それとこれとは話が別!」
「いいから外出るぞ。結界はもう消えたろ?」
「ちょっと!」
何だかはぐらかされたような気もするが、早くここから出たいのも事実。
伽那夛は大股で歩き出している甚爾に置いていかれないよう小走りでついて行った。