第1章 微笑―月下の君―
「でもそれって私達も直接見たら危ないんじゃない?」
「直接見なきゃいい。ガラス越しでもカメラ越しでも何でも、何か挟めば問題ねぇ。この画像だってそうやって撮られたはずだからな」
なんなら常に絵画から目を逸らして戦うこともできなくはない。額縁だけ捉えておけば甚爾には十分だ。
ただ、呪霊祓除や呪物破壊となると呪具が必要になってくる。
甚爾が再び武器庫呪霊を吐き出す様子を伽那夛は顔をしかめて眺めていた。
「その怪しい絵画があったのは部屋のどこだ?」
武器庫呪霊が元の大きさに戻り、そこから刀を出しながら、甚爾は尋ねた。
直接見ていなくとも大体の場所は分かるだろう。
「入って右手の壁よ」
伽那夛がハンカチを出してそれを書斎に見立てる。
「ここがドアだとして、こっちの壁。窓はドアの正面、左手の壁には本棚があったと思うわ」
「成程な……オマエ、五条の術師ならそれなりに戦えるよな?」
「ん?まぁね、二級呪霊くらいだったら術式で一捻り……」
「じゃあ俺が戻るまで頑張れよ」
ドンッと音がしたと思ったら、甚爾はもうその部屋にいなかった。
バリケードも扉も破壊され、そこから出たことを物語っている。
「なっ……!?」
開いた扉の向こうに蠢いている無数の絵画。
次の瞬間、絵画に描かれた人物の目という目が伽那夛の方を向き、一斉に部屋に雪崩れ込んできた。