第1章 喧嘩別れ
悠side
「すまない、今日ここに運ばれてきた患者のカルテ見せてくれないか?」
俺はカルテをまとめていた看護師にカルテを貰い、零音の名前が無いか確認した。
どんなに確認しても名前は無い。
やっぱり零音はもう……
「先生?顔色が悪いですよ?」
「あぁ……心配ない。君たちは患者を落ち着かせるよう務めてくれ。君たちも不安な気持ちはわかるが、今は出来ることをやろう。」
「はい!」
看護師に伝え、自分たちがやるべき事をそれぞれが行う。
「やはり、新種の感染症ですかね?」
「あぁ、そう考えるしか無い。傷口から菌が繁殖している。死因としては出血死だが、恐らく菌が脳に周り死に至るのだろう。」
他のドクターとも話を交え、今回のこの状況について究明していた。
空気感染では無さそうだ。
現に同じ空間にいたドクターは皆無事。
「……ワクチンとか……あれば……」
ドクターがポソリと呟いた。
確かに抗体があればこの状況は収まる。
ただ、急に現れたこの病原菌……
そんなものあるはずがない。
色んな専門家と知識を混じえて俺たちで開発するしか……
けどそのためには実験だって必要だ。
それに、病原菌も必要。
つまり……
さっきの化け物化した人達から細胞を取り出さないといけない。
……あの地獄の場所に戻らないといけない……
「……今はよそう。少しこの場が落ち着くまで休んでいよう。」
1人のドクターがそう提案し、俺たちは一息つくことにした。
俺は1人になりたくなり、トイレの個室に籠った。
再び零音に電話をかける。
やはり出ない……
イライラしてきた俺は携帯を投げ壁にうちつけた。
「零音……すまない……頼むから無事でいてくれ……」
零音は昔から怖がりで俺がいつも側にいた。
きっと今頃震えているだろう。
過去のこともあり俺以外の男には恐怖心を抱く。
こんな状況じゃあいつにとってはかなり鬱だろう。
ただでさえトラウマを抱えててたまに壊れてしまう。
早く傍に行ってやらないと。
そう思い、俺はトイレを出て決意した。
「……俺、ここから出ます。」
そう1人のドクターに伝えた。