第1章 喧嘩別れ
悠side
零音に頬を叩かれたのは初めてだ。
それにあんなに怒っているのも。
左の頬がジンジンと痛み熱くなってきた。
冷やさないと行けないが、冷やす時間も惜しい。
その間にも患者はどんどん運ばれてくる。
『我儘すぎ』『頭が痛くなる』
自分の発言に対して言いすぎたなと反省をする。
確かに約束してたのを破ったから俺が100%悪い。
それに10年。
俺だって一緒に過ごしたいし大事にしたい。
これまで零音といて凄く幸せだった。
きっとこれからもずっと幸せだろうと思っていた。
鞄の中から小さな箱を取り出す。
中には指輪が入っている。
今日レストランでプロポーズするつもりでいた。
法律上結婚はできないが、それでも気持ちだけでも違うと思って用意した。
養子縁組の書類も準備している。
「はぁぁ......くっそ......何やってんだ俺。」
こんな時に限って付き合う前の零音との事を思い出してしまう。
それから付き合い始めてからの事も。
俺にとって零音は大事な存在だ。
一緒にいなきゃダメなんだ。
アイツが俺に知らなかったことを色々教えてくれた。
今悩んでいてもキリがない。
急いで帰ってきてからちゃんと零音に謝ろう。
そして指輪も渡してプロポーズしよう。
零音の笑顔が思い浮かぶ。
『さっきはすまなかった。今日急いで帰ってくるから待っててくれ。』
零音にそうメッセージを送り、俺は家を出る。
きっと鍵を持って行ってないだろう。
そう思い鍵を開けっ放しにしておくことにした。
少し落ち着いたら帰ってくると信じて。
「行ってきます......」
いつもなら玄関先で見送ってくれる零音の声と笑顔が無くて寂しく感じた。