第1章 喧嘩別れ
零音(あまね)side
「え、帰れない?」
「あぁ、ごめん。約束してたのに。」
「でもどうして急に?」
「急患。今どこの病院も患者で溢れてるらしい。他のドクターも手が回らないんだ。」
悠が朝から慌てて身支度を済ませ仕事に行く準備をしている。
カレンダーには今日の日付に赤い丸が。
今日は僕と悠が付き合って10年。
高校2年の時から付き合い始めた。
お互い28歳を迎え、同棲も今年で5年目だ。
それなのに......
「仕事が大事なのはわかるけど......今日記念日だよ......10年の......」
「あぁ、だからホントにすまないと思ってる。この埋め合わせは明日にしよう?」
「そう言っていつも疲れて帰ってくるから結局何も出来ないじゃん!」
そう。これまでの記念日も全部仕事だと言って一緒に過ごせない。
今日は何があっても絶対に休むって言ってくれたのに。
確かに人の命を助けるのは大事かもしれない。
でも約束できないのなら絶対なんて言わないで欲しかった。
期待しちゃうから。
「仕方ないだろ......俺だって一緒に過ごしたいんだ。」
「いつもそうやって言うけど今までちゃんと約束守ってくれた事ないじゃん!」
悠は初め僕を落ち着かせるように優しく話していたのも限界が来たのか、溜息を吐いた。
「はぁ......零音、我儘すぎ......もういい歳なんだからもうちょっと考えろよ。あと普通に朝から怒らないでくれ。頭が痛くなる。」
「なっっ!?」
パシンッ
その言葉に僕も頭に来て、遂悠の頬を叩いていた。
「いっっ......は??」
「もういい......もう知らないっ!!勝手に仕事行きなよ!!帰ってこなくていい!顔も見たくない!!」
怒りを通り越して涙が溢れてきた。
僕はスマホと財布を持って家から飛び出した。
「おい零音!待て!!」
僕を引き止めようとした悠の声は僕に届かなかった。