【ONE PIECE】海賊王と天竜人の娘は誰も愛せない
第2章 *
「だっはっは!すまんなお嬢さん、本当に邪魔しちまったか?」
「…あ、い、いえ…いらっしゃいませ。助けていただいてありがとうございます、…お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」
「おれのこたァいいんだ。店の外からでも困ってるのがありありと伝わってきたからな、お嬢さんの声、で………」
「いえ、本当に…ありがとうございます。あ、メニューご覧になりますか?」
来店した数人の海賊たちは、船長の赤髪の彼がカウンター席に座ると同時に全員が席についた。
ほとんどのお客さんは出ていってしまったけれど、新しいお客さんは嬉しい。しっかり接客しなくちゃ。
と、背後からメニュー表を数枚取り出して差し出すけど、赤髪の彼は私の顔を見つめたまま動かない。
「……あの、お客さん…?」
左目を覆う三本の傷が目立つ、赤い髪の男。
さっきのナンパ男とは月とスッポンほども差のある顔も声もいい男は、目を見開いたまま音もなく口をはくはくと開閉している。
何か失礼なことでも言ってしまっただろうかと、私も混乱する。
「す、すみません、私、何か…」
ちらりとカウンター席についた海賊たちの顔をひと通り見渡すけれど、彼らは赤髪の男をどこか困惑気味に見つめるばかりで、わたしのことは特に気にしていない。
別に私が何かをしてしまったわけではなさそうだと、ほんの少し安堵しかけた。
けれど。
───まさか、と。
ひとつの可能性に、冷や汗が背中を伝う。
未だ私をじっと見つめる赤髪の彼。
彼は…この赤髪の男は、まさか……
私の、父親のことを……!
「ロジャー、船長……?」
「──ッ…」
赤髪の男が私を見つめながらぽつりと呟いた名前に、私は思わず肩を震わせて息をのみ、一歩後ずさる。
…み、見つか、った。
きっと彼は、生前のゴールド・ロジャーと深い関わりのある人物。
焦りからくる冷や汗が、背中だけでなく全身を覆うように滲みだす。
逃げなくちゃ。
もう、この島にはいられない。
瞬時にそう判断した私は、カウンター脇にある裏口をちらりと見て、男を見て、そして勢いよく踵を返した。