第17章 芸能界 第9話
かなside
カチンコの音が強く響きカメラが回り始める
ずしりとした空気が辺りを満たし
1年の時を全て濃縮したかの様な
重くて強い時間が流れる
人生そのものを問われるかの様な長い一瞬
私の名前は有馬かな
小さい頃は天才と呼ばれ皆がちやほやしてくれた
でも今はネットでオワコン子役と呼ばれている
小学生辺りでどうやら終わってしまった私だけど
地道にこの業界にしがみついて
ようやく掴んだ待望の主役級
何が何でも良い作品にしたい
その為なら藁にも縋る
分かってるよ
これが結構なクソ作品だって分かってる
基礎も出来てない演技
既に4話まで公開済みで視聴者の殆どが落胆し
失敗作の烙印を押している
でもまだ手遅れじゃない
このシーンは原作屈指の名シーン
ヒーローとストーカーの対決
愛の知らない少女が初めて誰かに守られ涙を流す
漫画でここを読む時はいつも泣くし
何度も読み返すほど大好きなシーン
ここで相方と呼吸を合わせて上手くフォローし
最高の演技が出来れば…きっとまだ…
<オマエノカンガエソウナコトダ>
…
<バカナノ??>
呼吸を合わせて…
<ヒトリニサセネーヨ!!>
無理だよこんなの!!
フォローしきれない!!
なんで監督達はこんな演技でOKだと思うの!?
ここってもっと緊迫感があって怖くて
おどろおどろしいシーンじゃないの!?
演技ってそんなにどうでもいい…??
ここはもっと…!!
((ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ
「雨で足音がマイクに乗っちゃってます
止めますか??」
「いや、んー…
イカシで…感じ出てる…」
<この女はお前が思っている様な人間じゃない
お前みたいなチャラついた男とは絶対相容れない>
あれっ
<そいつは俺と同種の人間なんだよ>
さっきはあんまり上手くないって思ったのに
<陽のあたる場所に居れば干からびる>
リハの時より
<暗い場所がお似合いなんだ>
感じが出てる