第11章 湖畔の町
国境を出て三日ほどが経過した。やっとのことで、湖の対岸にある【ダーヘン】という町に到着した。
まさか、今、視界に広がる光景が湖だとは思ってもみなかった。この町は水が豊富だと言うことで、凄く栄えているらしい。町も大きくて、町中はとても活気づいていた。
そして、恒例の冒険ギルド訪問。今回は、マーフィスに連れられて受付へと行った。行くたびに絡まれるので、単独行動はさせて貰えなかった。
マーフィスが受付の女性に声を掛けると、満面の笑顔を浮かべた。どうやら、ここでもマーフィスは有名らしい。チラチラと、マーフィスに視線を向ける人たちもいる。
「お久しぶりですね、マーフィスさん。今日はどの様なご用でしょうか?」
「特に用は無いが、立ち寄ったから顔を出しただけだ。数日滞在するから、ギルマス(冒険ギルド長)にもそう言っておいてくれ。」
「分かりました。それで、いつになったら私とデートしてくれるんですか?ずっと待っているんですよ?」
マーフィスは真顔のまま、首を傾げている。
「お前・・・何言ってんだ?意味が分からないんだけど。そんなくだらない冗談、言うヤツだったっけ?」
「そ、そんな言い方・・・酷い。」
「何より、あんたには婚約者がいるだろ?」
「えっ・・・どうして・・・。」
「錬金術師の情報網、甘くみるなよ。いいのか?相手は低位とは言え、一応は貴族なんだろ?」
受付嬢は、目に涙を浮かべている。マーフィスに心を寄せているのは事実らしい。でも、マーフィスにその気はない。だからこそ、貴族に求婚されて受けたのかもしれない。
「そんな事はどうでもいいです。それより、その人はマーフィスさんへの依頼者か何かですか?」
「ん?あ、俺の嫁だ。綺麗で可愛いだろ?」
あ・・・受付嬢が白目を剥いて倒れた。マーフィスの言葉を理解したくなかったのかもしれない。受付嬢は他のギルドスタッフが運んで行った。
「マーフィスって、罪作りなヤツだよな。」
なんて、捨て台詞を吐きながら。
想い人から、完膚なきまでの拒絶。少しだけ同情を覚える。
「マーフィス、他に用事は?」
「あぁ、空き地を借りる。」
別の受付嬢から斡旋されて、マーフィスは空き地を借りた。そして、私の手を引いては目的地へと向かう。