第8章 依頼
あ、目が合った。思わず見た目に反した怯む程の眼光の鋭さ。そして、その行動に誰よりも苛立ちを見せたのはマーフィスだった。
「その女なのか?その女が、マーフィスの伴侶なのか?お前には伴侶など必要ないだろ。貴族の娘だと聞いたが、捨てられないなら私が貰ってやってもっ!!?イ、イタタタっ!!!」
「相変わらず、俺の神経を逆なですることしか口にしないな。」
「マーフィスは女に現を抜かす時間など必要ないだろ。そんな暇があるなら、いい薬草を採集していい薬を作る時間に当てた方がよっぽどっ!!!ぐわっ!!?イタタタタ。」
何やら、コントみたいになってる。
「ミア、止めてくれるなよ?」
「止めないよ。」
「いい判断だ。」
あ、でも・・・鷲掴みしている顔面から、骨の軋む音が聞こえる。只でさえ覇気のない顔色をしているのに、このまま滅されてしまうのでは?
少し心配になったけれど、私は放置することにした。
「マーフィス、終わったらさっきのプリン食べようね。準備してるから、適当に終わらせて戻って来てね。」
「プリン・・・分かった。直ぐに終わらせる。」
その数秒後、来客は何処か彼方に飛ばされて行った。
「これが、プリン・・・。プルプルしてる。このまま食べていいものなのか?」
「うん。あ、このスプ・・・。」
マーフィスが、顔を突っ込んでそのまま噛み付いた。スプーンを先に用意しなかった私がいけなかったのだろうか?それとも、このまま食べていいと返答してしまったことがいけなかったのだろうか?
「マ、マーフィス、急ぎすぎ。スプーン使って。」
「ん?あ、そうか。つい気が急いてしまった。けど・・・俺、この味好き。一番好きなのはミアだけど、二番目・・・嫌、二番目はパンだな。プリンは三番目だ。」
私への好きは食べ物と同じ土俵らしい。まぁ、一番だと言ってくれたからいいけど。
「でもさ、無理してないか?」
「えっ?無理?」
「こんな美味しいもの作るのは大変だろう?それに、ミアは何も出来ないって言ったけど、俺としては無理なんかしなくていいんだからな?」
「じゃあ、残りのプリンは食べない?」
「食べるけど・・・。あ、でも・・・。」
何やら、苦悩するマーフィス。でも、そんな優しい気遣いを見せてくれるマーフィスの事を、人としても好印象を持てる。