第6章 貴族令嬢の思惑
ギルド長は私を一瞥だけしては、何も言わずに帰って行った。
「マーフィス、直ぐに出立する?」
「そうだな。そうしよう。」
マーフィスが魔法鞄から取り出したのは、貨物車だった。因みに、構造は分からないけれど自動で動く。勿論、マーフィスが御者となって動かすことも可能らしい。
そして今、御者席にマーフィス。その隣りに私。やはり、景色が見たい。危険はマーフィスがいるから安心だ。キリアの町中を走らせている中、昨日のマーフィスに言い寄った店子とすれ違った。
あの店子はマーフィスに恋慕しているのが明白。でも、私だって負けないんだから。嫌なヤツだと思われるだろうが、マーフィスに寄り掛かれば抱き寄せられた。
歯ぎしりをして私を睨み付ける店子。しかし、そんな店子に見せつける様にマーフィスの頬にキスしておいた。
「たまにはいいもんだな。そうやって、ヤキモチ妬かれるのも。でも、どうせならキスは唇がいいんだが。」
「あ、後でね。」
「分かった。後でな?」
どうしてこんな時に限って、そんないい微笑みを浮かべるの?嬉しいの?楽しみなの?
・・・マーフィスの笑顔が眩しい。
でも・・・どうしてこうなった?確かに、この貨物車は自動で動くとは聞いた。そして、今は町を出て貨物車は走っている。
私はと言うと、マーフィスの膝の上に横抱きにされてキスしてる。更に言うと、たまにすれ違う商人たちをギョッとさせている。
でも、マーフィスから逃げられない。きっと、羞恥心はさっきの店子に投げつけてしまったのかもしれない。マーフィスに抱き付き、甘いキスを味わっていた。
こんな旅立ちでいいのか?嫌、いいに決まってる。散々、苦汁飲まされてきたんだ。あんな我慢だけの生活なんてまっぴらだ。
マーフィスに擦り寄り、只管マーフィスの唇を堪能しながら目的地へと向かった。
そして、貴族令嬢の家。令嬢の我儘によって、錬金術で作られたものは何一つ得られる事は無くなった。その事で激怒した両親は、娘を家から身一つで追い出した。
その噂を聞きつけたある者は、密かにその錬金術師の行動を監視する様に指示を出した。