第5章 冒険者と住人
射抜きそうな視線だった。私に向けた目は。つい、怯む私は手に力が入っていたのだろう。
「ミア?」
「えっ?あ、ううん。何でもない。私・・・もう帰りたい。」
「じゃあ、後は私とお話ししましょうよ!!」
マーフィスの腕に絡みつく店子の女の子。
「さぁ、奥でお話ししましょう?次のお仕事の件もありますし。時間はたっぷりありますから。」
「ねぇよ。」
「えっ?」
「次なんてねぇよって言ったんだ。人の機微に聡い俺が、気付かないとでも思ったのか?それに、気安く俺に触って来るな。」
「ど、どうしてその人は・・・。」
「こいつは俺の嫁だ。行くぞ。」
アウェイ感を味わった私は、すっかり意気消沈していた。あんな露骨に除け者にされるとは思わなかった。
「ミア、これに乗れ。」
マーフィスは絨毯を広げては、私を伴い空に浮かんだ。私はと言うと、マーフィスに抱き付いていた。
「マーフィス、ごめんなさい。」
「何でミアが謝るんだよ。」
「お仕事の取引ダメにしちゃったから。」
「元々一回きりだと思ってたし、取引が無くなっても俺は困ることはないから安心しろ。」
「うん。」
マーフィスは嘘は言わないし、上辺だけの言葉も使わない。これはマーフィスの口癖だし、周りの人の認識も間違っていなかった。だから、信用出来る。でも、気持ちは別物だけど。
家に着くなり、約束通りにたくさんキスされた。くすぐったくて笑ってしまうほどで、でもそれがマーフィスの気遣いだと思えた。
とは言え、中々終わりそうにない。確かに、たくさんだとは言った。言ったけど、限度はあると思う。ねぇ、理性フル導入するって言わなかった?言ったよね?
今の私に羞恥は感じていない。若干、呼吸困難で命の危機に晒されている気がするのは気のせいではないはず。それに、さっきから何度も私の名を連呼してキスするのはどうなの?
マーフィスの声が甘い。吐息が熱い。そして、しっかりと抱き締められた体は逃げられそうにもない。
あ、何か口の中に入って来た?ザラリとした感触が私の舌を捕らえ絡め取られる。マーフィスの理性は?
そう・・・黄金色の瞳と目が合い、私の意識はそれと同時に飛んでしまった。慌てるマーフィスの声が、頭の片隅で聞こえる気がする。
あんな熱が籠った綺麗な黄金色の瞳に見詰められたら・・・全速力で、私の羞恥が戻って来てしまった結果となった。