第19章 世界樹の雫
そんな事を言っても、マーフィスにはギルドから声が掛かる。今日も依頼を受けて薬を作っている。
「マーフィス、この薬は何?」
「薬ではなく聖水だ。」
「聖水?」
「ギルド長から渡された。近隣に聖女が現れて、その祝福を受けたものだと聞いている。」
引き籠っていた私は、聖女の事なんて知りもしなかった。聖女って・・・何処でも特別扱いされる存在だよね?
「マーフィスは・・・その聖女って気になる?」
「これっぽっちも興味ない。」
「えっ?聖女だよ?」
「前にも言ったが聖女だろうが何だろうが、ミアじゃないなら等しく同じだろ。意味のない心配なんかするな。」
そこまで言われたらぐうの音も出ない。
「それに、聖水なんて無くても俺の薬は高性能だ。」
そんな事を言っていたのに、その噂の聖女がこの国に訪れることとなったのは数日後のことだった。町は賑わい住人たちや滞在していた人たちも歓喜に沸いていた。
聖女は世界樹に祝福を与えに訪問するらしい。そんな事に興味のないマーフィスは、こんな最中にこの町から出ると言った。一目でも見たいと思っている人はごまんといるだろうに、マーフィスは相変わらず私にベッタリだった。
「マーフィス、本当に出て行くのか?」
引き留めようとしているのは、ギルマスだ。他意も作為もないとは言っているものの、それすらもマーフィスはどうでもいいことらしい。
「先日、マーフィスに作って貰ったあの薬品はかなりのものだと聞いたぞ。」
「いつもと変わらない。」
「そんな事ないだろ。アレには・・・。」
「いくらギルマスでも、それ以上続けるなら俺を愚弄すると受け取ってもいいってことか?」
「気分を害させたのなら謝る。すまない。だが、あの薬の出所を・・・いや、悪かった。」
マーフィスの表情は無かった。それに気付いたギルマスは、それ以上何も言えなくなった。
そんな剣呑な雰囲気にそぐわない声が、マーフィスを呼んだ。走り寄って来ては、マーフィスに抱き付く。
「お待たせ、マーフィス。」
「もういいのか?コーノスさんも世話になった。」
「いいえ、私の知り合いの商人をご紹介しただけですので。」
「ミア、そろそろ行くか。」
「うん。」
さっきまでの重い空気感は無くなり、二人は惜しまれながら町を出た。