第1章 手順
何時間経ったのか、体が痛む事が伝わってきた。どこかで横たわっているのか身体の広範囲に柔らかく沈む感触に薄ら目を開けた。
「知らない天井だ。」
近くに誰か居たのか動く気配を感じ、目だけそちらに向けた。
「…すまなかったな。だが君も避けきれない所に出てこられたんでな。」
その声に安堵し、ツテが現れて良かったと思った。
「日本の道路交通法では如何なる場合だろうと車が生身の人間をはねた場合、車が悪くなるんだ。」
身体をゆっくり起こし相手を見ながらそのまま話し続ける。
「FiftyFiftyとは言えないぞ。」
あまり大きいとは言えない目を丸め、起き上がったこちらを見て驚いた様子を見せている。
「だが私も悪かった。」
考え事をしたまま集中し切って周りの様子がわからなくなっていた事は事実だ。
「…驚いたな。君は一体、どういう人間なんだ?」
「信じて貰えるとは思っていない。疑って貰って結構だ。自分を記憶喪失だと言ってしまった方が信じて貰えると思っているんだが、正直に話すよ。」
彼は無言で私を見ている。堂々と何を言い放つんだと思われるに違いない。
「私は、他所の世界から来たんだ。」
それだけ言い終えると暫く無言になる。
少しして彼が口元を緩めフッと笑い始めたと思うとそのまま大きく笑い始めた。
ーーあぁ、そうだよな。ーー
考えるだけに留めておこうと思ったが口に出した方が理解しやすいかと考え直し、続きは相手に聞こえる様に話した。
「その笑わせた様子を真純ちゃんに見られたら“彼の様に魔法使いみたいだね”と言われてしまうだろうな。熱海の時の様に。」
私の言動に彼がピタリと止まる。
「…。」
彼はじーっと私を見ながら顎の辺りに人差し指を置き考える素振りを見せた。
「…信じてみるしかない様だな。」
「是非そうして欲しい。それから私には君の力が必要だ。承認保護プログラムを求めたい。」
「構わないが、今からはどうするんだ?」
「行きたい所がいくつかある。その前に赤井さんはマセた小学生を知ってる?」
.