第18章 合図
携帯の表示は消えず、朝になってもパスワードを入力する画面には戻らないまま画面を嵌め込まれたような、壊れたような状態になった。
「……」
ーー…壊れる……ーーー
どこか、今の自分の状態と重なって見えた。
18章 合図
-signal-
生暖かい風と共に潮香が髪を撫でる。
今日は安室さんにメッセージを出し、潮干狩りに誘った日だ。
短パンとパーカーを羽織った状態で内側には哀ちゃんと出掛けた時に買った水着を着ていた。
「お誘い、有難う御座います。」
まだ湿度が高くない今は充分爽やかな空間だというのに、この人の周りだけは余計に…いや、
まるでATフィールドが展開されているようだ。
此方も展開しなければその防御壁は砕けないのだが?と心の中で呟くと自然と溜息が出そうになる。
そんな考えを知らないだろう彼は私のパーカーの前に手を伸ばし、ファスナーをある程度閉めてしまう。
自然な動きで。見惚れていては変に思われるだろう何か話を続けなければ。
「……貴方には誰より“お詫び”をしておきたいんです。」
「お詫び…ですか?」
「そう。今はまだ話せない。…だから聞かないで。」
彼の服装を見ると事前のメッセージ通り濡れても大丈夫な格好をしてくれている。
それなら問題ないだろうと、浜の管理棟へ向かうと安室さんもついて来てくれる。
「安室さん、コレ持って。」
「コレは…随分大きいですね?」
「大丈夫。安室さんはコレを腰が浸かる位置以上で、このカゴが半分沈む状態をキープして動ける筈」
「…漁?」
潮干狩りなど漁と程度が違うだけで、やってる事は同じだろうと言うと笑われてしまった。
私は貝を入れる蓋付きのバケツを用意して持ち上げる。
「じゃぁ、よろしくお願いします」
浜のパラソルの下で安室さんの動きを目で追っていると何とも様になっていた。
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