第9章 贖罪
ただ壊しただけならいい。
何かに巻き込まれた訳ではないのかと考えたが、外傷のないところを見ても
彼女の特殊な身体を考えればどうすればいいのか分からなくなった。
手を伸ばして彼女の顔にかかる髪を避けてやって、ふと気付いた事に驚く。
自分の携帯を取り出し博士に連絡をとった。
「博士、“小さなお医者さん”に来て貰って下さい。」
「…どうして…」
少しして彼女の小さな主治医を部屋にあげた。
「いつものように眠って居るんですが、“熱”があるようなんです。」
「…それだけじゃ無いわ。彼女には脈もある」
失念していた。
さっきの男が言わなかったのも頷ける。
思い込みで調べなかったのは俺の方だ。
彼女はタイムリープを繰り返している。
脈を持った状態の彼女がいてもおかしくはない。
ただそれは俺に会うよりも前の存在という事になる。
あのボウヤから、彼女が俺と別れた後に
小さな主治医が彼女には脈が無いと
言っていたと聞かされていた。
だがそうなると、彼女の脈が無くなるのは
“いつ”の事なんだ?
ーー…もっと前か…?
一体、“いつ”の彼女なんだ…?…ーーー
普段、こんな気持ちで居たのか?
…“普段”…まるで、普通のことみたいに…
“脈があるかないかで何が変わる?”
何“か”変わる…?…
「っ……」
定まらない考えに耽っていると
彼女が眼を開けた。
眉間に皺を寄せ明らかに“悔しい”という表情をしている。
だが何故“悔しい”んだ?
何もわからない何も知らない。
「…沖矢さん、頼みがある。」
一度目を閉じてて、いつもの表情に戻ったかと思えばすぐに眼を開け俺を真っ直ぐ見つめた。
「…私を…」
ーー彼女のこの眼を見る時はいつも何かの覚悟を迫られるーーー
どうしてそんな眼が出来るんだ
今起きた事は何でも無かったみたいに
いつも先を見つめて
「 殺して 」
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