第7章 限界
会話に気を取られていて気付かなかった。
辺りを見渡すとよく見ている光景で其処は
堤無津川のトレーニングに使っている場所だった。
「降りて。橋の下でトレーニング。」
「…スーツなんだけどな…」
警視庁からそのままの状態だったから着替えている訳では無い。
「動きにくいって?」
にやりと嫌な笑い方をされる。
上着を脱いで後部座席に投げた。
ネクタイを緩めてシャツのボタンを外すとその様子を見ていた彼女が頬を赤くして…
ーー…なんでそんな顔するんだ…ーー
「…めっちゃカッコイイ!」
「!」
笑顔で、そんな感動したような声で
褒められたら男は皆嬉しいに決まってる
ーーずっと、調子…狂わせられてばっかりだな…ーー
少し離れ一定の距離を取ると彼女がルールを話し始めた。
「私からこのバングルを奪えたら安室さんの勝ち。5分のタイマーをセットするから、タイムオーバーで私の勝ち。」
「…もっと短くても、構いませんよ?」
「長くても良いくらいだ。」
お互いに言葉でジャブを決めた後、彼女はタイマーをスタートさせた。
5分後
「私の勝ち。ハムサンド奢って。」
「いつそんな賭けが?」
捕まえようとしたりフェイントを試したが彼女には全て見透かされていて
真っ直ぐ伸ばした拳を寸止めしようとした時なんか、彼女の動きはピタリと止まり
寸止めする事も読まれていた。
そのまま指でデコピンしようとしたけど些細な反抗も読み尽くされ
負けた事を実感した。
今までに出会った事の無い女性に魅入っていた。
「…送っていきます。」
車に向かいながら、今度は自分が運転する事を確立させて話すと彼女はすんなり受け入れ場所を告げようとした。
「じゃぁ…」
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