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D.World.

第7章 限界






給湯室に入って、折り畳めるカセットコンロを点火させる。

料理を始めると出入り口で降谷さんが腕を組んで壁に寄りかかった。

こちらを見ている視線を無言の攻撃と捉えながら下準備を終わらせた。

普段はしない日本酒を使いフランベにして魚特有の臭みを消す。

魚に火を通す間に味噌汁を温めながら針生姜を作る。

針生姜を作る時は左手の親指で生姜を抑え、残りの指先で安定させる。

右手で握った刃を少し角度をつけながら円を描くように1枚、1枚と削ぎ取るように切る。

この出来た何枚かのスライスを千切りにする事で針生姜を作れる。

「へぇ、そんな事知っているのか。」

急に声をかけられてハッとした。

集中していないとこの作業は水掻きを切る可能性があるのに、今話しかけられたら…ーー

「……」

まぁ、この身体の所為で血が出るようなことにはならないんだが。

痛みだけは有るんだよな。


「…大丈夫…か…?…」


見られたと確信した。

これ以上黙っておく必要も無いだろうし話してもいいんだけど。
ただ、警視庁公安部って場所が悪いな。


「…ああ。…痛みを感じる以外はーー
ーー…何も無いからな。」

手を広げて見せると、これを見た相手は固まり黙ってしまった。

「後で話すよ」

2つに分かれている紙皿を広げて米と魚、多少の野菜を盛り付けて

「ん。」

盛り付けた皿を降谷さんに突き出すと意表をつかれた驚く面持ちに変わる。


「運んで?皆、降谷さんが与える仕事プラス他でも働いてる。…作れる時間が無いから…偶には、自分の部下に仕事以外も配ってみ。」


彼に差し出した皿をそのままに笑顔を向けた。

すると何を思ったのか分からないが彼の首筋が微かに動くのが見えた。

けどそれだけでは感情を読みきれなくて、今は多分自分の表情はきょとんとしている。

「…?」

「っ…!」

ーー何だ?なんか降谷さんの顔が一瞬、赤くなって照れたように見えた気が…ーーー

いやそんな事よりも、

「温かいのを作ったのはそういうタイミングで食べて欲しかったから、なんだが?」

早く持って行ってと、更に突き出すと手で皿を受け取った。

自分も両手に持ってオフィスに向かおうと催促すると給湯室からやっと出られた。






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