第10章 特別講習の時間
「とまあこのように私達が普段聞くような音楽の原点がここにあるわけです。その時の社会状況も見えてきて面白いでしょう?」
『…けど…なんかJポップとは全然違いますけど』
「まあまあそう焦らずに。次はピアノコンサートへ向かいましょう」
『何か凄く見られてません?』
「そろそろ開演なので座って下さい早稲田さん」
『(絶対先生のせいだ…)』
『あ…この曲』
「流石に分かりますね。有名なモーツァルトなどはこの次の時代に活躍した人物です。
そこから音楽の形態が大きく変わっていったのですが、その要因はわかりますか?ちなみに貴方はもう既に歴史で習っているはずです」
『んー…戦争とか?』
「残念!正解はルネサンスです。
美術だけでなく音楽にもありのままの表現がいいとされる時代があったんです。繊細な音楽とは異なり、作曲家自身の心情をダイレクトに伝える曲も数多く作られました」
『この時からメッセージ性を持たせていたんだ…』
『あの、先生』
「何ですか早稲田さん」
お昼休憩に近くの河川でバケットのサンドウィッチを食べている途中に私は話かけた。
『やはり理解できません。どうして生徒にここまでするんですか?金欠で泣くことも少なくないのに…』
「痛いとこ突かないで下さい!!」
事実じゃないか
先生は一息ついた後ににっこり笑って答えた
「理由なんて簡単です。それはとてつもない価値があるから」
『…地球がなくなるかどうかはともかく、卒業すれば今後の生活に関わりはないのに?』
「君たちを育てることはもちろん先生としてのやりがいです。
ですが、この仕事の贅沢なところは貴方達という人に会えた、他の職場ではなかなかできない体験です。それだけで先生は十分なのです」
『?』
「早稲田さんもいつか人を育てる時になれば分かりますよ」
人を育てる時…教師になるか、あるいは自分の子供を…そんな時が、いやそもそも
こんな私を愛してくれる人なんて、もうこの世にはいるのだろうか…?
「さてと、お次はゴスペルを聞きに行きますよ!」
『ゴス…ペル…?何ですか?』
「ここでかなり現代のポップカルチャーに近づきます!」