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私が嫌いな私なんて〇したっていいじゃないか

第45章 自分たちの時間


水族館は暗くて肌寒い。どれだけ父親に殴られても、母親から「愛してる」の一言もなくなっても、ここはいつでも「お帰り」って言ってくれる気がして好きだった。すべての生命は海に帰居するっていう本能はあながち間違いではないのかもしれない。
そんなことをぼんやりと思いながら巨大水槽のキラキラ光るイワシの群れを眺めていた



「綺麗だね」

と彼から話しかけられるまで自分の空間に入り込んでしまっていた

『あの、こんなの楽しいですか?ただ何も言うことなく水槽を見てる時間なんて』

「楽しい…というより幸せ。こうやって二人の時間を共有できるなんて今までの自分は思ってみなかったもん。だから遊夢ちゃんの”好き”もちゃんと知っておかなきゃ。だから退屈はしてないよ」

他の人にその機会を取られるのはもう御免だから。
ぽつりと呟いた言葉を聞いてようやく私がカルマさんに外出するなら水族館がいいと言ったのを思い出した

『気にしてたんだ…』

「わ、笑わないでよ…」

『だって可愛いんだもん』

可愛いは嫌!って膨れっ面になる彼は置いて次のエリアに進む










それから色々回った。魚たちを静かに眺めていたり、イルカちゃんと戯れたり、アトラクションに乗ってみたり。メリーゴーランドなんてこの歳になって久しぶりに乗ったけど渚さんが似合いすぎると悶えていたのでそれ以上は何も言わなかった。




日もあっという間に落ちて、最後に観覧車に乗って帰ろうと誘われた。ここの観覧車はスケールが大きいことで有名で、特に頂上で見る夜景が綺麗なのだとパンフレットにも書かれていた。

「二名様ですね。足元に気をつけてください。どうぞ」

考えていることはみんな同じなのか少し並んでいたが、じきにその順番は回ってきた

『うわ、広い』

ゴンドラは思った以上に広くて軽く一時間はここで暮らせそうだ。観覧車はよく左右の重さでぐらつくこともあると言われているけど、これならずっと均衡を保っていられるので酔う心配もない


私たちが立っていた景色がゆっくりと下降していく

「遊夢ちゃん」

『?』

「どうだった?今日のデート。楽しんで貰えたら嬉しいな」

『勿論、感謝しかありませんよ。貴方の特別としてここにいられるなんて、私の方こそ夢みたいです』

「…そっか」
そう言うと彼はまた視線を外に移した
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