第44章 進んでいく時間
『渚さんっ!』
「遊夢ちゃん」
教室に入ると渚さんが待ってたよと笑う。いきなり出てきたのはいいけど次に何を話すのか決めてなかった。手が変な位置で固定されてるのをまた笑われた
『えっと……その、
あ、とりあえずこれ貰って下さい』
とりあえずって何だよと思いながら押し付け気味にチョコを渡す
「遊夢ちゃんも持ってきてたんだ」
『初めて作ったのであんまり自信ありませんけど』
「へぇ…」
初めて、と言うと彼の口元が弧を描いた。渚さんはあの時からなんか余裕のある感じだ。何か吹っ切れているのだろうか
『それで、その、…
話したいのはそういうことじゃなくて…』
「うん」
『あの、査定の結果いう前に一つ聞いていいですか?』
「え、査定?」
『あの時私を認めさせてって言ったじゃないですか』
「聞いてないね」
『それなのに、どうして貴方は何もしようとしなかったんですか?』
あの後、正直な彼ならそれなりにアプローチがあると予想してた。けどそれは見事に外れていたのだ。その質問に目の動きが止まった
「………
遊夢ちゃんの過去を聞いて、僕が迫るのは違うような気がして。
遊夢ちゃんは嘘つきだから。同時に周りのことも信用できない。だったらありのままの自分を見てもらう方が一番分かりやすいし信じて貰えるって思ったから」
『そう、ですか』
彼の迷いのない答えに私は心を決めた
『おめでとうございます。合格です』
「え?」
まるでドッキリにでも遭遇したかのような目の開き様だ。久しぶりに笑った
『だから、いいですよ。私は貴方の愛に応えます』
彼の驚きの表情がみるみる歓喜に変わっていく
「いいの?本当に…」
『貴方にはそれだけの価値があった。ただそれだけです』
「またそうやって…」
そう言うと体がギュッと引き寄せられる。身長もさほど変わらない私達は相手の肩に自分の顔が余裕で乗る。ああ、幸せってこういうことなんだな
「遊夢ちゃん、僕と付き合って下さい」
『はい、
喜んで。』
彼の愛は私のこめかみに誓われた
『(なんでここにしたんだろ……)』
「ねえ、さっきの質問返答次第では不合格もあり得たってこと?」
『うん』
「うわぁ」