第44章 進んでいく時間
「ユーミンに宣戦布告してみたけど、元から分かってたんだよね。きっと勝ち目なんてないって」
『そんなに分かり易かったですか』
「私これでも役者だよ?人の気持ちくらい分かるっつーの
私は渚の特別にはなれない」
『特別…』
「渚がユーミンのこと見てるとき…
見たことないくらい幸せそうな顔してたから」
同情…というつもりではないけど、分かっていて側にいようとした気分は想像以上につらい筈だ
「それでも諦めたくなくて、少しでもいいからこっちを向いて欲しくて努力したの。結果無駄だったけど
そろそろ卒業するこの時期になって、きっと言わないと後悔するって確信した。だから振られに行った。渚からの言葉ならきっと納得できると思ったから」
『…』
「私のこと、酷い奴だって思ってる?」
『ううん、
嘘つきの茅野さんより、正直でライバルのカエデちゃんの方が私は好きです』
「……ははっ、結局お互い様って訳か」
くしゃりと悲しそうな笑顔を見せた茅野さん。辛そうだったけどどこか吹っ切れた表情だった
「渚、ユーミンのことずっと待ってるみたいだよ。幸せにならないと私が許さないからね!」
『う、うん…頑張る?』
ーーー
茅野side
嫌いだった。お姉ちゃんが言う私とそっくりな彼女が、渚に全てにおいて好かれてる彼女が、
こんな醜い感情くらいでユーミンのことが嫌いになりそうな私が
けど、お姉ちゃんが言ってた意味、何となく分かった気がしたよ。
お墓の前でボロボロに泣き出す彼女の姿は、部屋で枕に顔を伏せながら涙を忍ぶ私にそっくりだった。
不思議だよね、私の境遇が一番辛いと思っていた筈なのに
「渚…」
「茅野?」
「私、渚が好き。恋愛的な意味で
でも渚はユーミンのことが好きなのも知ってる!」
「…」
「ただ悔しかった。私の気持ちに一度も気づいてくれなかったことに。今だって初めて知ったって顔してるでしょ」
「……ごめん、傷つけて」
「応えてくれなくていい。ただこれだけは貰って欲しいの」
「チョコ?」
「ありがとう、いつも私の側にいてくれて。
大好きだったよ」
あーあ、終わっちゃった。
校舎を出て目尻を拭う。
「さよなら、私の初恋。あと、ありがとう」