第42章 決断の時間
舌を噛みそうになった。顔の血がサアッと引いていくのを感じる
『そんな話誰から…』
「杉野が噂だって。その先の情報源は…知らないけど」
この人は…
それを聞いてなんて思ってるんだろう。普段なら空気を読むことなんて容易いことだったけど、この人の顔からは何も読み取れない。
いや、何を怖気づく必要があるんだ。赤羽さんと付き合っているという事実はないけど、彼には関係ない話だ
『デートと言うより…ただ出かけるのに付き合っただけです。何もやましいことはしてません』
「…」
『何、浮気だって言いたいんですか。自分はそれらしいことはした癖に』
「違う!あれは…」
駄目だ。どうして私は昔から皆と仲良くできないんだろう…口を開けば辛辣なことばかり言って…だから私は”いらない子”なんだ…
ー似てるね、髪が長かった頃のひつじちゃんにー
私だって…あの時に戻りたくないよ
『しつこいですよ。
私が何したって私の勝手じゃない。
本当、そういうところが嫌っ…』
((ドサッ
「嘘だ」
『え』
「嘘だ、嘘だ嘘だ噓だ噓だ噓だ!!
僕には遊夢ちゃんだけなんだ!」
気づけば私は湿った枯れ葉の上に押し倒され、馬乗りする彼に迫られていた
私、だけ?
「初めて…
僕の叫びを聞いてくれた……
例え性別が違っても僕のこと大事な友達だって言ってくれたのは…
遊夢ちゃんだけなんだ…」
それは蚊のような小さな声で…さっきみたいに怒っているというよりか
縋るように懇願する声だった
「でも、駄目なんだ…捕まえたいのに…上手くいかなくて…
勝手に傷つけて、勝手に怒って…
殺したくなる…」
『!』
「お願い。一度でもいいから好きって言って。
僕がおかしくなる前に」
私の上に乗っているのはアサシンではなく、
駄々をこねる只の小さな子供だった
でも、
『ごめんなさい…それは、言えない。
言っちゃいけないの…』
幻滅するだろうから。こんなことを知ったら…私は罪悪感できっと死んでしまう
「どうして…」
『それは…』
「ちょっと、ウチのトラッパー引き入れないでくれる」
目線をあげると赤羽さんが私たちを見下ろしていた。なんだかそれ以上は見られてはいけないような気がして、お互い距離をとった