第41章 憎悪の時間
この騒音の中、彼に私の言葉がどこまで伝わっているのか分からない。なんせ彼が一切表情を変えなかったものだから
『ごめんなさいー』
貴方に助けを求めてるわけじゃないんだ、と訂正しようとすると、手首を掴まれた
「ねえ、帰る前にプリクラでも撮ろうよ」
と、有無は言わさず私を視界の悪いボックスの中に引きずり込んだ
え、どういうあれ?ていうかそもそもこの人そういうの撮るタイプの人だっけ?と黙ったままプチパニックを起こしていると…
『んっ!?』
え?
『…
え……え…』
「その様子だと、したことなさそうだね」
何された、私
多分私の顔はあの茅野さんっぷりの耳まで真っ赤だった気がする
『…なん、で』
掠めるような声で反論するが、当の本人はポーカーフェイスが上手く、顔も赤くすらしないまま言った
「ごめん。
俺に助けることは無理だと思う。
けど、忘れさせることはできる」
手の甲で私の頬を撫でる。
まだ頭がふわふわしてる…
「この時間だけ、別のこと考えさせてあげる。
渚君だってあれだけのことしたんだ。
ここにはいないけど、
嫉妬して、ちょっとだけ後悔すればいいと思う」
なんて意地の悪いことを言う。最低だと思いつつも、もう疲れた、と悲鳴を上げる自分もいた。
もういいや、
恋愛なんて、面倒くさい。
ただ単に、居心地が良ければそれでいい。
『ごめん、
今だけ、忘れさせて』
彼のシャツをキュッと掴むと一瞬驚いていたが、その答えを待っていたと目を細めて顔を近づけた
『ん……ふ…』
わざわざ言うのもあれだけど意外としつこくなかった。狼みたいな性格してる癖に。必要以上に深くしてこないし、一線は弁えているようだ
でも、もう何もときめかない。
あーあ、
好きって気持ちさえも、忘れちゃった
ざまあみろ
『うげ、撮られてるし…』
「いいじゃん。カメラに背中向けた写真なんてどこにもなさそうで面白いじゃん」
『回収』
「ちぇー」
『まあ、ありがとう。つかの間の休息だったよ』
「別に俺から誘ったことだしね。明日から冬休みでしょ?また連絡する。
今度はホテルにでも行く?」
『笑えない。セフレだけは無理』
「冗談だって。
じゃあまた」