第39章 自我の芽生え、そして…
『な、なにを…』
私の顔はたぶん自分でもわかるくらい引きつっていた
「そのまんまだよ。茅野カエデは仮の姿。暗殺をするために変装したって言ってもいいくらいだもん。
本当の名前はね、雪村あかりっていうんだ」
『…!?』
雪村…私の予想が間違っていなければ…
「ユーミンが想像してる通りだよ」
『茅…雪村さんはどうしてここに来たんですか?』
「そんなの簡単。お姉ちゃんの復讐のため」
『!』
「殺せんせーは、あの怪物は、私のお姉ちゃんを殺した。私の目の前で、殺されたんだ」
己の身の上を話す彼女は、確かにアサシンの顔をしていた。黒く、奥底から煮えたぎっている怒りが体を作り上げている
私の知っている茅野さんはここにはいなかった
「馬鹿だよね、人殺しのくせにのうのうと教師なんてやってて、私の本当の正体にも気づかないでさぁ!」
『茅野さん…』
私が静かに名前を呼ぶと、公の場であることに気が付いたのか笑顔を戻した
「ごめん、変な話して」
『いえ…』
さっきのを見てしまったらすぐに悟ってしまった。私の力では彼女を止めることはできないと。それでも私には先生を守らなきゃいけない気がした。だって、あの先生が殺しなんて…
ー復讐には復讐しか生まれませんからー
いつしか先生がいった言葉が妙に頭を響いた。変な汗ばかりが額を垂れていく
『あの…先生は…本当に人を殺したんでしょうか…』
「…何?私が見たのが嘘だって言いたいの?」
『ち、ちが…』
この威圧感。唇が動かない。私、震えてる…
でも、言わなきゃ…
『あの人がそんなことをするとは思わないんです。半年間一緒に過ごして…
貴方も本当は心のどこかで気づいているんじゃないですか?人を殺した人が…貴方のお姉さんのような真似事をするのは…どうして…』
彼女は黒い眼で私を見つめた。そこには何とも情けない表情の私が映っている
『見たことを、否定するわけじゃありません。ただ、本当に殺して…その後が心配なだけです。
貴方は…私に似ているから』
「似ている?」
他人から見えない内側の部分で孤独と戦っている姿が、私そっくりだ。私は先生に一度引き上げられたからまだ正気でいられた。じゃあ、もしそのままだったら?
彼女はどうなるの?