第37章 伸びる影の時間
「いつも先生にはお世話になってるからな。家での愛娘のこともちゃんと教えてやらないとなぁ」
違う、あの時助けてくれなかったのはあいつなのに…
『い、いやだ…』
「は?」
まただ。あの有無を言わせないような言葉が嫌い。自分でも分かるくらい大袈裟に肩が震えた
『ご、ごめんなさい!
もう余計なこと言わないから…歯向かわないから…
だから…許してください!!!』
必死になって額を床に擦り付ける。幻滅した、こんな人に頭を下げる自分に。けど身体は恐怖で蝕まれていて思うように動かなかった
父は妙な猫撫で声で私の頭に語りかける
「そうだよな、お前は美咲とは違うもんな?俺だけを見捨てるなんてありえないよな?流石は俺の子供だ」
「なら最初からそうしろよ」
最後に放った低く囁かれた圧のある声が耳から離れなくて、その日は眠る事ができなかった
三者面談当日。どうやって先生が話し合いに参加するのかと思ったが、扉を開けて理解した
「どうも、担任の烏丸です」
「初めまして、遊夢の父です。いつもウチの子がお世話になってます」
烏丸先生、ご愁傷様です。そう突っ込む気も今の私にはなかった。父は差し障りのない笑顔で対応する。あいつの外面を初めて見た気がする
「早速ですが話し合いに入りましょう。早稲田さんの進路ですが…」
「あー、その件なんですがね。どうやら変な勘違いをさせてしまったようで…」
「勘違い?」
「ほら、早く謝りなさい」
『………………
先生、間違った情報を伝えてごめんなさい。私、やっぱり留学はいいです。家庭には父もいますし、そもそも私には無理だったんです。今からでも頑張れば椚ヶ丘高校に入学できると思うので』
「…」
「とまあ、そんな訳で急かもしれませんが変更、という形でお願いできませんか?彼女もこう言ってますし
私も独り身ですから彼女には余計なことはせずに家庭に入ってもらえる方が安心するんですよ」