第37章 伸びる影の時間
「何だその目は」
『……を……
お母さんを侮辱しないで!!!』
今期一番の声を出したと思う。けど威勢だけでは勝てないことを直ぐに思い知らされる。
「…ッ、テメェ…罪人如きが父親様を睨むんじゃねえ!!」
地雷を踏んだのかキイキイと喚きだす。痛い…痛いな…
「そーだ。お前の母親もそうだった。揃いも揃いやがって何だその罪の視線は!!!俺は悪くない、これは躾けなんだ。出来損ないのお前等が足を引っ張るから悪いんだ。寧ろ感謝されるべきなんだよ、なあ?」
ずっとそうだ。こいつはお母さんが死んでから、責任の矛先が自分に向くことを何よりも恐れていた。子供が言い訳をするようにその不安を怒りに変えて私に八つ当たりするんだ。それが日常。
そうだ、音楽を学ぶ以前に……
だから私は…あの道を選んだんだ
『私…留学します』
「は?」
『お金は出してくれなくて結構です。椚丘の学力なら十分支援を受けられますし、お金ならもうある
貴方との生活はうんざり。もう私の手には負えません』
「……美咲いいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
『あっ…』
「裏切り者が……今更出てきやがって…だからお前の顔は嫌いなんだ…あの光景が今もちらついてよ!!」
息が荒い。首にかけられた手はどんなに抵抗してもピクリとも動かない
『また…殺すつもり……?あの時みたいにッ!!!』
「違う、あいつは勝手に死んだんだ!!出来損ないだから生きる意志も、資格もなかったんだよ!!
父親を置いて先に仕事を放棄する嫁なんて何処にもいない!!
次はない。次こそはは完璧な…女になって貰うんだからな、遊夢…」
今更名前なんて呼ばないでよ…気持ち悪い。お母さんが死んだときも悲しまなかった癖に
貴方が言う女って何なの。魅力がない人は妻(服従者)になって、ある人は男の為の遊び人(浮気相手)になることなの?
「美咲の時もそうだった。あいつが反逆するようになってからロクな事がねぇ…
使えると思ってたが温めておいて正解だったな」
そう言ってあいつは携帯の画面を突き出した
『あ………あぁ…』
「父さんは悲しいよ。こんな事になるなんて」
電気の付かない部屋でもニタリと上がるあいつの口角は分かった