第35章 新たな背中の時間
『君は…どうしたい?』
「どうって…」
『私は諦めない為に親を敵にまわした。どちらを選んでもアリだと思う。
でも、叶君は何を選ぶの?』
叶君はそれっきり頭を下げ、私の色紙をじっと見つめていた
私は時間をかけて考えな、と声をかけてその場を後にした
「おい」
後日、いつものようにピアノの周りに集まっていると、叶君が背中から話しかけてきた。ここしばらくは口を聞かなかったから他の子も不審そうに見る
「俺と連弾しろ」
『……いいよ』
彼の真意に気づいたので乗ってあげることにした
一つのピアノに2人並んで座る
正直少し驚いた。あの小さな手であれほどの音を奏でることが出来るとは。初めは叶君の歩調に合わせようとしたが
「手加減すんな!!」
と怒られた
『いいんだね、本気でッ!』
符が多くなると叶君は顔をしかめた。しかし徐々に口角が上がっていく。
ーーー
『ありがとう。久々に楽しめたよ』
「…」
弾き終わるとまた黙ってしまう叶君。しかし、今日違った
「俺さ、クリエイターになりたいんだ」
『…!』
「曲を作って、人に歌わせて、有名になりたい。アイツすげぇ!って言わせてやりたい。
…だから、そういう意味では、嫌いじゃないよ、音楽」
『……そっか、素敵だね』
「でも、俺のやり方と親の意向は絶対に合わない。けどそれくらいで捨てられる夢でもない。
反対されても家出する覚悟でいるよ」
『うん。私に出来ることは無いと思うけど、私は反対しないよ』
「あと…」
『?』
「ごめん、色々…///」
叶君が耳を赤くして、少し不貞腐れた感じであったがちゃんと謝ってくれた。にっこり笑って頭を撫でると子供扱いするなと言われた
そして一週間後、園長さんがようやく回復して戻ってきた。美しく、そして使いやすくなった園をみて度肝を抜いていた。元気になった園長さんを見て子供達も群がる。少しキレやすいお爺さんだがなんだかんだで皆んな大好きなんだ
「あ、じーさん戻って来たんだ!見ろよ、こいつピアノめちゃくちゃ上手いんだぜ!?」
「おい、じーさんじゃなくて園長と何度言えば………ん?あの叶君が音楽を……?」
『へえ、初めは私のことブスとか言ってた癖に?』
「なっ!?い、今その話をするのはヒキョーだぞ!!」