第35章 新たな背中の時間
『ちょっとやりすぎちゃったかなぁ…』
「あれ、遊夢ちゃん叶君は?」
『私の演奏聞かせたらそれっきり黙ってどこか行っちゃって…』
「お姉ちゃんすご~い!!」
「どうやったら上手くなるの?」
『何も特別なことはしてないよ。いーっぱい練習してただけ。
みんなと遊ぶ時間を全部ピアノの練習に回しただけ。』
ここ一週間、叶君の動向はずっと大人しかった。睨まれたりはするけど特に手を出してくることはない。おかげでみんなも安心して音楽ができるようになって安心した
「すみません、叶君が…」
『いえ、まだ発達してない子供ですし…』
「あの子ね…ご両親が音楽家なんですって」
『!』
「自分の子供も同じく立派に育てたいって何時間も習い事に通わせていて…それが仇になったのかクラスでも上手く馴染めなくて結局不登校気味になったのよ」
『…』
「でもね、本人にもちゃんとやりたい事があるみたい。けどいくら主張しても呑んでくれない親にもううんざりしてるって」
『ここで少し横暴になってしまうのは…そのストレスを発散したいからなんですね…』
……少し作戦を練ってみるか
翌日、叶君は一人でうろついてた。遊びに誘うことも入れてもらうことも難しいお年頃のようだ。そしてある決まった時間になると校舎の裏に座り込み、何かを眺めている。見計らって彼に近寄った
『何してるの?』
「あ?…………!?!?」
始めキレ気味だったのが私の姿を見て口をパクパクさせる叶君。
「な……え…Mine!?…なんでここに」
『なんでって、君、私のファンらしいじゃん』
二っと歯を見せて笑う。そう、彼が持っていたのは私のサイン色紙だった。叶君は私がここにいるやらそのまま学校の制服を着ているやらで頭が混乱している。「お隣失礼」と私は続ける
始めはちょっと揶揄ってやった
『君さ、私のこと虐めてたでしょ』
「い、虐めてない!第一どこにもいなかったじゃん!」
『あれー?おかしいなー
私はずっとピアノの前にいたよ?』
再び目を白黒させて驚く。まあこれで嫌がらせをされた分はチャラになっただろう
『別に信じなくてもいいよ。私には何の不利益もないから。
叶君ってさ、この間のサイン会に来てくれた子?』
「…これ持ってれば誰だって分かるでしょ…」
耳を赤くして俯く。この機に及んでまだ天邪鬼らしい
