第35章 新たな背中の時間
『ド~は』
「ドーナツ~のド~♪」
私は事務班の待機児童のちびっ子たちの面倒を見ることになった。丁度簡単なピアノ揃えてあったのが助かった。音楽で楽しむ時間を増やせたらいいなと考え、早速始めることにした。思いの外乗ってきてくれてよかった…(汗
しかし、問題発生
「うわ、へったくそ!」
ピアノを囲む子供たち後ろから野次を飛ばす少年がいるのだ。園の先生に聞くと小学生の叶君というらしい。勿論私は全員が楽しんでくれてるとは毛頭思ってない
「こんな餓鬼みたいなごっこ遊びでご機嫌取ろうとしてんのか?
それくらい俺でも弾けるぜ?」
ただ他の楽しんでる子供たちの邪魔はして欲しくなかった。実際他の子も彼が来ると嫌そうにその場を離れていく。だから極力波風は立たせずに対応しているつもりだ
『ごめんね、つまらなかったんだね。叶君はどんな曲が好き?』
「ブース」
いつもこんな感じで下らないことを言って去って行く。子供って…難しい…
「…あの子何様なの」
「ひつじちゃん虐めて良いのは俺達だけだって分かってないお馬鹿さんなんだね~」
『早く持ち場戻って下さい』
そして上手くいかないでいると必ず渚さんと赤羽さんが様子を見に来るのでこれも少し困ってる。子供はどっちだ!!
今のところ彼には今まで通り接している。ピアノもいつも通り続けている。ある時、他の女の子が「私もあの子キライ」と耳打ちしてきた。どうやら園の仲でも評判は余りよくないらしい。もしかしたら、私を追い出したいだけなのかもしれない…そう考えると大分気が楽になった
そして今日も今日とて叶君から罵倒されてた。どんなに嫌がらせをしても中々出て行こうとしないのにしびれを切らしていたのか初っ端からぎゃんぎゃん喚いてた
「いい加減出て行けよ!ここにお前の仕事なんてないんだから!先生も言ってたよ、お前の下手くそな演奏が耳障りで仕事に集中できないってさ!!」
『ふーん、そっかぁ。
じゃあ、本気出せばいいんだね』
「は?何言って…」
叶君の第二声が出る前に鍵盤に手をかけた
『黙って私の曲を聴きなさい』
パガニーニ作曲 ”ラ・カンパネラ”