第33章 二名の時間
「へえ~イトナ君って糸成って書くんだね!」
「キラキラネームだねっ」
横でそんな会話が聞こえたので首を動かしてみる。堀部さんが茅野さんと倉橋さんという珍しいメンツに絡まれてた。
キラキラネームかはともかく余り読みなれない字面ではある
後ろで片岡さんが「いい名前じゃない」と若干不機嫌になっている堀部さんをなだめていた
「というか、珍しい名前の奴ならこのクラスにも何人かいるだろ」
「え?」
その言葉を境に斜め前に座っていた木村さんが大きなため息をついた
「ええええええ!?ジャスティス!!?」
「てっきり、まさよしかと思ってた!」
木村さんの名前、正義と書いてそう読むのが正しいらしい。自分も基本苗字でしか呼ばないから私もちゃんと口に出したことはないけど…何だかずっと同じ班にいたメンバーなのに知らなかったことにちょっと情けなくなる
「皆武士の情けでそう呼んでくれてんだよ。殺せんせーにもそう呼ぶように頼んでるし」
「最初入学式で聞いた時はビビったよなぁ…」
少し懐かしむように呟く菅谷さん。確かに、急に横文字出て来たって思ってたけど名簿見ても明らかにカタカナの人はどこにもいないし、あれ?ってちょっとだけ混乱したね。菅谷さんの反応にそれだけじゃないという木村さん
「卒業式でも呼ばれるからまた公開処刑だよ…」
木村さんのご両親は二人とも警察官らしく正義感に舞い上がって付けた名前だそう。当たり前のことだが自分の名前って結局のところ両親のその時の気分に寄るんだなと改めて思う
「親は親で付けた名前に文句を言うとは何事だ!って叩いてくるしよ。子供が学校でどんだけ揶揄われてるのか考えたこともないんだろうな…」
「そんなもんよ、親なんて」
続いて狭間さんが木村さんの机に手を置く
「私なんてこの顔で綺羅々よ、綺羅々。綺羅々っぽく見えるかしら?」
顔を近づけ圧をかける狭間さん。ニタリと上がる口角と表情には明らかに恐怖でしかない。怖気づいた木村さんは「い、いや…」と否定(?)する
「ウチの母親はメルヘン脳のくせに気に入らないことがあればすぐにヒステリックに喚き散らかす。そんなストレスかかる家で育って、名前通り可愛く育つ筈ないのにね」
ズーンと重い空気が漂った。うん、やっぱり大変なのってウチだけじゃないんだね…正直狭間さんの話が一番リアル過ぎた
