第31章 残夏の疑惑の時間
「でも、弱くなった気はしない」
そう呟くと先生は満足そうに笑う
「最後は必ず殺すぞ、殺せんせー」
そうビシッと指さすと大人しく席に戻って行った。
そう言えば彼は私の隣だったなぁと呑気な事を考えていると、ずんずんと私の前に近づいてきた。私は座っていたから必然的に見下ろされる形になる。今は何も闇を移さないカナリートルマリンの瞳は返って何を考えているのか読めなかった
『え、え…何……あ、いや初めまして?違う、お久しぶりです?』
本能的にあの梅雨の日を思い出して言葉が変になる。慌てる私をよそに机に何かゴンと置く
『え?』
「詫びの品だ。受け取れ」
私は堀部さんと机に置かれた芋ようかんを交互に見比べる
「何だ、好みじゃないか?」
『あ、いえ、芋ようかん大好きです(汗』
彼が頓狂な声を出すもんだから何となく合わせた。この異様な雰囲気に周囲の人も冷汗気味だ
『いや、それよりも、どうして私に対して”詫び”だなんて思うのか知りたくて…』
「寺坂の馬鹿から聞いた、お前が触手を手に入れた時もシロに半ば騙されていたと。そんな手を使って仲間を傷付けたことを今も尚後悔してるって」
『!』
ふと横を向くと寺坂さんは「フン」と悪態をついていたが。あんな見た目して…分かってたんだ。と少し感心した
「それで腑に落ちた。なんでお前が俺に突っかかってくるのか。
初めは僻みでそんな事を言っているのかと思ったが、お前は実際事実しか言ってなかったことに最近気づいた」
『……そんな。
私がこうして在るのはただの同情心だからですよ。可哀そうとか、そう言う、身勝手な責任のない気持ちからだから…そんなに立派な事じゃないです』
そう作り笑いをすると、彼は「なんでだ?」と首を傾げた
「少なくとも俺の心情に気付いてくれたのはお前だけだ。
普通の人は虐待をする母親を内側を知ろうとしないまま上っ面だけで非難しようとする。
責任もなく勝手な事を言うって言うのは
実際に慰めもしたことない奴が言うセリフだろ?」
<Mineってさー同情癖あるよね>
<それな、何不自由なく生きて来た奴が知った口聞くなよって話>
彼の言葉が私の胸にストンと何故か落ちて来た。ああ、私も相当貯めてたんだな…
『ありがと…』
これからもよろしく、と笑うと彼は満足気に席に戻って行った