第31章 残夏の疑惑の時間
不破さん達から詳しい話を聞いた。
ニセ先生の正体はシロが手配した烏丸先生の部下だった。名前で分かる通り先生をおびき寄せて奇襲する作戦だったようだ。
しかし、堀部さんは勝負に負けた。触手の力で荒れ狂った彼をシロはおいて行ったのだ
けど、あの後姿を眩ませている。合流している可能性は高い
「そんで、これ見て」
と不破さんが出したのは世間で騒がれている携帯チェーン店の連続テロの内容が取り上げられている雑誌だった
『これは…』
「明らかにイトナ君だよね」
写真や容姿の特徴から昨日の彼だという事が一目で分かった。しかし、何故こんな無差別攻撃を…しかも携帯店に限って…
「……少し前から気になっていたのだが…」
後ろで竹林さんが眼鏡をクイと上げる
「堀部、という名前、どこかで聞いたことがある。
僕の勘が正しければ……
大手の携帯のチェーン店だった筈だ」
『!』
急いで携帯で検索してみると一発で出てきた。皮肉なことに、最近は便利な物で知りたいと思う情報は余程の事がない限りすぐに見つかってしまう
『…』
彼の背景も容易に察知できてしまった
彼の両親は事業に失敗してしまい、職を追われることとなった。その時に堀部さんを置いて行ったのだろう
彼が強さに執着したのも……本当は大切な親に戻って来て欲しいだけなのかもしれない…
その陰にシロは付け込んだ
『だからあの時……』
寂しさを埋め合わせる為に強さという力に変えてしまった。しかしそれは幾ら手に入れたって満たされる物ではないことをその時に気付くことができなかった。
鼻の奥がツンとした気がした
「しかし…
これは一生徒として見過ごせません」
後ろで先生が静かに言った
『でも…シロの事です。あの時”捨てた”という変則的行動も、いずれ追ってくる先生の事を見越しての事ではありませんか?』
「ええ、恐らくそうでしょうね。ですから万全の対策はして行きますよ。
彼にはまだ…教えなければいけないことが沢山ありますから」
『……先生、私達も同行させて下さい。
これは、無意識の義務ではなくて私個人としてのお願いです』
「…危険だ、と言いたいところですが
それでも私は君たちの先生ですから」