第30章 それぞれの暗殺の時間
楽しかった夏休みも終わり、いよいよ佳境の二学期に突入する。二学期は学期の中で最も学校での時間が長い。受験の対策も進めなくてはならないし、暗殺の方も確実に整えなくてはならない。今年は多忙な時期になりそうだ
そんな学校生活の始め、体育館で始業式が行われた
「ようE組共、久しぶりだな」
五英傑の…えっと誰だっけ…ああ、瀬尾さんだ。思い出してすっきりした
で、彼が何やらニヤニヤしながら私達に話しかけた。
『あいつこの間私達に負けたの覚えてないんでしょうか?』
「あーこういう都合のいい記憶力ゼロえもんいるよねー」
「聞こえてるぞ、そこォ!!」
キレのいいツッコミを境に集会は始まった
しかしあの余裕、少し胸騒ぎがする
「そして皆さん、この椚丘中学校に新たな仲間が加わります!」
生徒会の荒木さんがそうアナウンスした
転校生?編入学ってこの学校が受け入れるの?
「彼はかつてE組にいました」
『!!』
「しかし彼のたゆまぬ努力の末、E組を脱することを許可されたのです!」
E組?一体誰が…
「さあ、彼の喜びの声を伺いましょう!竹林孝太郎さんです!!」
わあと歓声が上がる中、異様な雰囲気を漂わせて彼、竹林さんはステージに立った。
「竹林…」
「なんで…」
皆だけがこの状況についていけていない
竹林さんはマイクスタンドの前に立ち、胸元から紙をぱらりと開いた
「その場を一言で言うなら”地獄”でした」
そのフレーズから始まったスピーチ。E組という環境がどれほど苦痛で、汚らわしい場所であったか、つらつらと2分程絶え間なくそんな言葉が続いた
皆唖然としている。頭にあるのは”なんで?”だろう。勿論言葉はカンペだから繕ったものなのだろう
しかしそんな中で私一人、彼に同情していた。竹林さんを見ている限り、そんなことは決して思っていない。けれど、何かに追われて、迫られて、汚い言葉をみんなの前で喋らなくてはならない。それは、聞いているみんなよりも本人が一番辛い筈だ。
言い換えるなら拷問
一通り読み終わると、隣に立っている浅野生徒会長が
「おめでとう」
と貼り付けた笑顔で拍手を送る。それに釣られて他の生徒も口々に賞賛する
「よくやった!」
「偉いぞ竹林!!」
「お前は違うと思ってた!!」
『はあ…』
私はさっさとこの奇怪な儀式から脱したかった
