第28章 夏の匂いが残る頃に
『ここの近くで美味しいところあるんですか?』
「え、うん。たまに父さんと二人で行ったりするんだけど…」
『渚さんの評判がいいなら一度行ってみたいですね』
「……じゃあ、今度行く?一緒に」
『ええ、機会があれば是非』
少し不安気に聞く渚さんに私は優しい笑顔で応えた
暫く海岸の淵に素足をだらりと垂らして二人で話していた。イオン効果というのか、潮のかおりと共に涼しい空気が足を通る
「こうやって改めて見るとさ、やっぱり夏季課外の事思い出しちゃうよね」
『私もです。あんなに充実した夏なら多分今後上書きされることもないでしょう』
激動の夏休み。少し目が回りそうだったけど、みんなの事ももっと知れたし、沢山成長できた。嫌な部分もあったけど、やっぱり楽しめた。
けど…
どうしてもあの時の熱が抜けない…
「…ごめんね」
『え?』
急に謝られ普段出さない声を出す
「僕、遊夢ちゃんに酷いこと言ったから…」
『あ…』
確かにあの間はずっとそのこと考えていた、気にかけていた。どんだけ不安なんだって話だから余り本音は言わないようにしてたんだけど…
『そう…ですね。ちょっと寂しかったです』
「…」
ちょっとだけ意地悪した
本当の気持ちに気付いて欲しくて
「あの後、中村さんにも怒られちゃった。あんた最低ねって」
『ははは…流石E組の姐さんですね』
「僕さ…焦ってたんだ…
カルマ君が遊夢ちゃんの事好きかもしれないって気づいた時から」
『うん………ん?』
「あんなに余裕そうな顔してたから何か手が打たれてるのかと思って」
『え。』
「けど、自分の気持ちも分かってないのに『手を出すな』なんて言えないから…あの間自分と向き合ってたんだ」
『え、ちょ、渚さん?』
私の反応も気にせずべらべらと続ける渚さん。え、いや、色々問題なんですけど。
えーとまず赤羽さんが私を好き?それを渚さんは悩んでた?だからあんな冷たい感じになってた?
つまり渚さんは………
「僕、遊夢ちゃんの事が好き。恋愛的な意味で」
『……』