第27章 バベルの塔の時間
「いーよ、って……戦わないってこと?」
「『ボスの敵討ち』は俺等の契約にゃ含まれてねぇ。それに今言ったろそこのガキ。そもそもおまえ等に薬なんざ必要ねーって」
『どういうこと?だってあれは人工的に作られた未知のウイルスで…』
私の問に毒ガス男が前に出た
「おまえ等に盛ったのはこっち。食中毒菌を改良したものだ。あと3時間位は猛威を振るうが、その後急速に活性を失って無毒となる」
ってことは…ウイルスだけど未知ではないってこと…?
私の開いた口が塞がらない表情にスモッグは「そう言うこと」と余裕な笑みを見せた
「使う直前にこの3人で話し合ったぬ。ボスの設定した交渉期限は1時間。だったら、わざわざ殺すウィルスじゃなくとも取引はできると」
「交渉法に合わせて多種多様な毒を持ってるからな。おまえ等が命の危険を感じるには充分だったろ?」
「…でもそれって、アイツの命令に逆らってたって事だよね。金もらってるのにそんな事していいの?」
「アホか、プロが何でも金で動くと思ったら大間違いだ。もちろんクライアントの意に沿うように最前は尽くすが……ボスはハナから薬を渡すつもりは無いようだった。カタギの中学生を大量に殺した実行犯になるか。命令違反がバレる事でプロとしての評価を落とすか。どちらが俺等の今後にリスクが高いか、冷静に秤にかけただけよ」
『…!』
名誉か、警察のリスクかを天秤にかけたのか。確かにそれなら私も後者を選ぶな…
「ま、そんなワケでおまえらは残念ながら誰も死なねぇ」
と、スモッグは小瓶を投げ渡した。中には錠剤が
「その栄養剤患者に飲ませて寝かしてやんな。『倒れる前より元気になった』って感謝の手紙が届くほどだ」
「………信用するかは生徒達が回復したのを見てからだ。事情も聞くししばらく拘束させてもらうぞ」
朝日が昇る屋上に二機のヘリコプターが舞い降りた
「…まぁしゃーねーな。来週には次の仕事が入ってるから、それ以内にな」
「…なーんだ、リベンジマッチやらないんだおじさんぬ。俺の事殺したいほど恨んでないの?」
「殺したいのはやまやまだが、俺は私怨で人を殺した事は無いぬ。誰かがお前を殺す依頼をよこす日を待つ。だから、狙われる位の人物になるぬ」
そう言って優しく頭に手を乗せた怪力男。赤羽さんも拍子抜けだ